こんにちは。記事の閲覧ありがとうございます。
コンクリート構造物の劣化要因の中でも「中性化」は、教科書では必ず登場する一方で、現場で実際に試験をしたことがある方は多くないのではないでしょうか。
しかし、中性化は鉄筋腐食のきっかけとなる重要な現象です。
試験方法・結果の読み方・進行予測まで理解しておくと、構造物の寿命評価に大きく役立ちます。
この記事では、
までを体系的にまとめます。
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(筆者)
この記事は、鉄道会社でコンクリート構造物の維持管理を専門にしていた経験のある筆者が解説します。ぜひ最後までご覧ください。
中性化とは?

試験方法の話をする前に、まずは「中性化」とはどんな現象なのか改めて整理します。
コンクリートの内部は高いアルカリ性(pH 12〜13)です。
このとき、コンクリート内部の鉄筋は「不動態被膜」と呼ばれるバリアによって保護されています。
しかし、空気中の二酸化炭素がコンクリート内部に侵入すると、アルカリ性が徐々に失われていきます。 これが「中性化」です。
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「炭酸化」と呼ばれることもあります。
中性化が鉄筋位置に到達すると、鉄筋の不動態被膜が失われ、腐食が始まる条件が整います。
ただし、中性化=腐食ではなく、腐食には水分・酸素などが供給されるという条件も必要です。
中性化試験とは

「中性化試験」とは、中性化の進行度を把握するために、コンクリート内部の「中性化深さ」を測定する作業のことをいいます。
代表的な方法は次の2つです。
コア法
1つ目の方法は、コア法と呼ばれる方法です。
簡単にまとめると以下のような流れで実施します。
JIS規格にも定められている、最も精度が高い方法です。

ちょっとちょっと。いきなり訳の分からない説明しないでよ。
「フェノールフタレイン溶液」?「呈色反応」?「JIS規格」?
わたし、完全に置いてけぼりなんだけど。
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ごめんなさい。完全に説明不足でした。
1個ずつ説明しますね。
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まず、「フェノールフタレイン溶液」とは、簡単にいえばアルカリ性を検知する薬品です。
アルカリが強い(=中性化していない)コンクリート面にフェノールフタレイン溶液を噴霧すると、噴霧した面がピンク色に変色します。この色の変化を「呈色反応」と呼びます。
「JIS規格」とは、「日本産業規格」とも言い、製品やサービスの品質を定める国家規格です。
JISに登録されているということは、国に認められた標準的な試験方法であることを意味します。

長ったらしい説明ありがとう。なんとなく分かったよ。
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どういたしまして。「長ったらしい」は余計ですが。
ドリル法
ドリル法は、コンクリート表面をドリルで削孔した際に発生する粉末を、フェノールフタレイン溶液を含ませたろ紙の上に連続的に落としていき、粉末の色が変わった位置をもって中性化深さとする方法です。
コア法と比べ、精度はやや落ちるものの作業が大掛かりではなく、現場で迅速に中性化深さを把握できるというメリットがあります。
試験法はどう使い分ける?
簡単に言えば、
という使い分けになります。
表でそれぞれのメリット・デメリットを整理すると以下の通りです。
| 方法 | メリット | デメリット |
|---|---|---|
| コア法 | ・中性化深さを最も正確に測定できる ・補修設計や耐久性照査の根拠データとして利用できる精度がある | ・コア抜きが必要で作業が大掛かり ・構造物への損傷が大きい ・調査点数を増やしにくい ・時間とコストがかかる |
| ドリル法 | ・現場で迅速に測定できる ・構造物への損傷が小さい ・調査点数を多く確保しやすい | ・精度はコア法に劣る ・粗骨材に当たると粉末が採れず判定が不明瞭になる ・作業者の技量に左右されやすい |
中性化試験の結果はどう見ればよい?

中性化試験は、現地で試験体を採取してフェノールフタレイン溶液をかければ終わり、というわけではありません。
現地で得られた中性化深さだけでは、コンクリートの劣化度合いを適切に評価できません。 必ず「鉄筋かぶり」とセットで判断します。
中性化による劣化過程の定義

以下は、中性化による劣化過程を定義したものです。
| 劣化過程 | 定義(期間) | 期間を決定する主要因 |
|---|---|---|
| 潜伏期 | 中性化深さが鋼材の腐食発生限界に到達するまでの期間 | 中性化進行速度 |
| 進展期 | 鋼材の腐食開始から腐食ひび割れ発生までの期間 | 鋼材の腐食速度 |
| 加速期 | 腐食ひび割れ発生により腐食速度が増大する期間 | ひび割れを有する場合の腐食速度 |
| 劣化期 | 腐食量の増加により耐荷力低下が顕著な期間 | 鋼材断面欠損量 |
劣化過程の「潜伏期」「進展期」「加速期」「劣化期」という言葉に耳なじみがない方もいるかもしれませんが、これらは「コンクリート標準示方書(維持管理編)」にも記載のある学術的な表現です。
【腐食開始時期の判定(示方書の明示規定)】
※「中性化残り = かぶり − 中性化深さ」
一般的に、「加速期」まで達している場合、何かしらの対処(補修等)を検討したほうがよいフェーズといえます。
「劣化期」まで達していると、状態によっては構造物の安全性に関わる事態になってしまう可能性もあります。
中性化を含む、コンクリートにひび割れを生じさせる原因となる現象についてはこちらの記事でまとめています。ぜひ合わせてご覧ください。
中性化の進行速度と √t 則(計算例つき)
試験で得られた中性化深さは、単にその時点での劣化度合いを評価できるだけのパラメータではありません。
√t則と呼ばれる式を使うと、将来的な中性化深さの進行予測をおこなうことが可能です。
中性化深さ d = α × √t (α:中性化速度係数、t:構造物が完成してからの経過年数)
ここで、α は水セメント比(W/C)や環境条件で変わります。
αを求める式はさまざまなものが経験則的に用いられていますが、ここではもっとも代表的である「コンクリート標準示方書」に記載のある式を示します。
α=-3.57+9.0*W/C (mm/√年)
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αを求める式として、他には岸谷式や和泉式、白山式などがありますが、どのような式なのかまでは割愛させていただきます。
計算例
この式を用いると、W/C の違いが中性化速度にどの程度影響するかを定量的に評価できます。
以下に、W/C = 45%、55%、65% の 3 種類について、50 年後の中性化深さを計算した例を示します。
まず、各 W/C に対して α を求めます。(以下は、45%の例)
α=−3.57+9.0×(W/C)
α=−3.57+9.0×0.45
9.0×0.45=4.05
α=−3.57+4.05=0.48
したがって、
α=0.48 mm/√年
d(中性化深さ)=0.48×√50≒3.39 mm
同様に、W/C=55%、65%の場合を合わせてまとめると、以下の表のようになります。
| W/C(%) | α (mm/√年) | 中性化深さ d (mm) |
|---|---|---|
| 45 | 0.48 | 3.39 |
| 55 | 1.38 | 9.75 |
| 65 | 2.28 | 16.1 |
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W/C が大きくなるほど中性化が急速に進行することがよくわかりますね。
特に45%と65%では、経年50年時点で中性化深さに5倍ほどの差があります。
実務でどう取り扱うか
中性化試験は、実務においては次のような場面で使われます。
コンクリート品質の確認
中性化深さと経過年数から、中性化速度係数(α など)を逆算すると、「この構造物のコンクリートが、想定していた品質・W/C・施工レベルに見合う耐久性を持っているか」を評価できます。
実測値から得られた中性化速度を評価することで、適切な施工がなされていたか(コンクリートの品質が確保されているか)評価が可能です。
もちろん、施工時にもコンクリートの品質管理は実施されます。
しかし、品質試験の結果が良くても、現場での打込み・締固め・養生の差で、中性化抵抗は大きく変わります。中性化深さの測定は、そうした施工の影響も含めた“実物の品質確認”として意味があるのです。
ひび割れ発生時期の推定
中性化は「腐食開始の条件」を整えるだけなので、寿命そのものではありませんが、腐食ひび割れが表面に現れるまでのプロセスの起点にはなります。 ざっくり言うと、
を足し合わせることで、「何年後から表面ひび割れが出始める可能性が高いか」を推定できます。
補修・補強の要否判断
中性化深さの測定結果と、かぶり厚さを組み合わせることで、
がわかります。
すでに到達している場合は、「腐食進行ステージに入っている」と判断し、かぶり剥離・鉄筋露出のリスクを含めて補修の要否を検討する根拠になります。
おわりに
中性化試験は、単に「フェノールフタレイン溶液を噴霧して色の変化を見る調査」ではなく、 構造物の現在位置と将来を読み解くための重要なデータです。
これらを押さえておくと、 中性化試験の結果が“ただの数値”ではなく、 維持管理の意思決定に直結する情報になります。
この記事が、中性化試験がどんなものか、理解の一助になれば幸いです。
中性化試験の知識は、コンクリート診断士の試験でも頻出です。コンクリート診断士がどんな資格か興味がある方は、こちらの記事をどうぞ。
それでは、ここまで読んでいただきありがとうございました!





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